Z世代から広がる「クワイエット・アゲ」~新しい自己肯定感と消費行動

最近、「クワイエット・アゲ」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
直訳すれば「静かなアゲ(静かな高揚)」。これは単なる流行語ではなく、Z世代を中心に広がる“心の在り方”を映し出すキーワードです。
誰かに見せるためでも、SNSで“いいね”をもらうためでもなく、自分の心がちょっとアガることを大切にする。
たとえば、他人には見えない靴下選びにこだわる朝や、寝る前にお気に入りの香りに包まれて深呼吸する夜。その一瞬の「満たされ感」こそが、クワイエット・アゲの本質です。
個人の小さな満足や内面的な充足が、いま新しい消費の原動力になりつつあります。
「静かにアガる」ことは、単なる気分の話ではなく、“心の豊かさ”をどうデザインするかという新しい市場テーマでもあるのです。
この記事では、Z世代を中心に広がるこの感覚を紐解きながら、これからのブランドやサービスづくりに役立つヒントをまとめてみました。
「クワイエット・アゲ」とは?
「クワイエット・アゲ」とは、他人の承認よりも“自分の心の充足”を優先する行動のこと。
見せびらかすことなく、自分の内側を整える小さな贅沢や習慣を指します。
【特徴】
「クワイエット・アゲ」の特徴は、大きく3つにまとめられます。
まず、他人には見えない、あるいは気づかれないほどの小さな変化に喜びを見いだす“非公開性・内向性”。
そして、所有よりも体験を、物質的な豊かさよりも感情の満足を重んじる“心の充足”。
最後に、特別な努力や出費を必要とせず、日常の延長線上で無理なく続けられる“等身大の実践”です。
これらの要素が重なり合うことで、静かでありながら深い自己肯定感が生まれます。

近年注目されている「Quiet Luxury(静かな贅沢)」や「Quiet Quitting(静かな退職)」とも共通点はありますが、焦点は少し異なります。
クワイエット・アゲは逃避ではなく、前向きな“自己回復”の行動。静かでありながら、じんわりとポジティブなエネルギーを持っているのです。

なぜ今、「静かにアゲたい」のか?
① SNS疲れと“共感疲れ”
常に誰かの投稿を見て「いいね」を押す。
気づけば他人の生活や成功と比べて、自分のペースを見失ってしまう──。
そんな“共感疲れ”を感じている人が増えています。
だからこそ今、「他人ではなく、自分の心にフォーカスしたい」という流れが強まっているのかもしれません。
② Z世代価値観の成熟
Z世代は、SNSの中心で育ってきた“デジタルネイティブ”。
その分、「見せる幸福」より「感じる幸福」の大切さにいち早く気づいています。
“見せびらかす疲れ”を経て、“誰にも見せない幸せ”の方が自分らしいと感じるようになっていると考えられます。
③ 消費軸の進化:「コスパ」「タイパ」から「ココパ」へ
これまでの消費行動は「コストパフォーマンス(コスパ)」、次に「タイムパフォーマンス(タイパ)」へと移り変わってきました。
そして今、注目されているのが「ココロのパフォーマンス(ココパ)」。
“どれだけ心が満たされるか”を基準に選ぶ、新しい消費マインドです。
日常でできる「静かなアゲ」の実践ヒント
「クワイエット・アゲ」は、特別なものではなく毎日の中の“ひと工夫”。
お金よりも“手間”と“意識”をかけることがポイントです。
「アゲ」といっても大げさなことではなく、
“自分だけが気づける変化”が心を整える力になるという気づきが大切です。
ファッションやアクセサリー
誰にも見せない下着にこだわる / 靴下の素材を最高級にする / 内側のポケットに、小さなお守りやきれいな石を入れることで、秘めたる自信、身につけた時の高揚感を得る。
くらしの空間と時間
朝起きてすぐ、お気に入りのアロマを焚く / デスクの下に、肌触りのいい小さなラグを敷く / 寝る前の10分だけデジタル機器を完全にオフにすることで、五感を満たす質の高いリラックスタイムを楽しむ。
セルフケア行動
入浴時に、パックやマッサージなど丁寧な手順を一つ増やす / 誰にも言わず、自分のための小さな目標を達成することで、自分を慈しむ感覚や小さな達成感を味わう。
デジタル断捨離
SNSの「通知」を全てオフにする / フォローを減らし、本当に見たい情報だけにすることで、精神的な平穏や集中力の向上を図る。
小さくキラめく「アゲ」アイテムたち
最近では、「静かなアゲ」を支えるアイテムも増えています。
ティースジュエリー・耳つぼジュエリー
派手すぎず、笑った瞬間にだけ光るような密やかな装飾。
人に見せるためではなく、“自分の気分を上げるための美しさ”。
エファメラルタトゥー(消えるタトゥー)
数日で消える小さなアート。
“今の気分”を反映して、日替わりで楽しむような軽やかさ。
ぬい活(ぬいぐるみとの暮らし)
「推し活」から派生し、ぬいぐるみを自分の分身のように愛でる人も増加中。
誰にも批判されない愛着の対象を持つことで、心が安定し、静かにアガる。
これらはすべて、“誰かの目に映らなくてもいい自己表現”いう点で共通しています。
▼「ぬい活にハマるZ世代~広がる推しとの日常体験」もぜひご覧ください。

「クワイエット・アゲ」ブームの裏側~言葉だけが独り歩き
トレンドワードが広がると、どうしても「ハウツー化」しがちです。
「これを買えばクワイエット・アゲ!」といった形式的な消費に寄ってしまうと、本質を見失います。
また、「これは誰にも見せてないけど…」とSNSに投稿してしまうと、それはもう“静か”ではなく、“演出された静けさ”になってしまいます。
大切なのは、自分のためにやっているかどうかを自問できること。
“心のための行動”を“他人への演出”に変えてしまわないことがポイントです。
ブランド・マーケティングへのヒント
「クワイエット・アゲ」は個人の価値観の話であると同時に、ブランドが“静かに響く存在”になるヒントでもあります。
Z世代から生まれたこの感覚は、仕事や子育てに忙しいミレニアル世代(Y世代)や、ゆとりある時間を楽しみたい上の世代にも共鳴しはじめています。
年齢やライフステージを問わず、「自分のペースで心を整える」という価値観が、これからの共通軸になりそうです。
派手な広告より「小さな共感」へ
プライベートな体験、限定的な体験価値を丁寧に伝える。
ストーリーテリングを強化
商品の背景や作り手の想いを“しみ込むように”伝えることで、購入体験が深まる。
五感に訴えるデザイン・演出
香り、手触り、音など、静かな空間で感覚的満足を提供する。
「クワイエット・アゲ」は一過性のトレンドではなく、“生き方そのもののトーン”として根づいていく可能性があります。

小さく、深く、アゲていこう。
それは自分の機嫌を自分でとるための知恵。
大きな変化も、誰かの真似もいりません。
今日の中にひとつ、「これ、ちょっとアガるな」と思える瞬間を見つけてみてください。
それが積み重なって、気づけば心が整い、日々がやわらかくなる。
そんな“静かな幸せ”が、これからの豊かさのかたちなのかもしれません。
リテール領域の顧客体験を共創する、ビーツ

株式会社ビーツ(BEEATS)は、リテール領域を中心に、企業と生活者の間にある「リアルな体験」の価値を磨き上げるマーケティング会社です。
店舗空間や展示ブースのデザイン、プロモーションツールやデジタルサイネージの制作まで一貫して手がけ、ブランドの世界観を伝える体験を設計しています。
ビーツはこれまで、Z世代を中心とした若年層に向けたブランド体験プロモーションを数多く手がけてきました。
今後は、Z世代の感性や価値観にも目を向けながら、より多様な世代との接点づくりに取り組んでいきたいと考えています。
若年層のトレンドを知る手がかりに
若年層の感性と消費マインドを探るヒントを発信中。
「リテールボイス」では、Z世代・α世代のトレンドを軸に、これからの購買行動を読み解いています。
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